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A Expiation in the Fair 4

  • ネタバレあり(CCFF7、FF7AC)
  • タイトル : A Expiation in the Fair
  • 投稿者 : jumping
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3章 新たな傷

 「――それで?」
 クラウドは緩む口元を掌で隠しながら、かろうじて聞いた。
 ティファは後ろを向いているが、肩が小刻みに震えている。
 どうやら、ハイデッカーへの一言は二人をツボにはまらせたらしい。
 「言われるままに『休暇』をとったのか?」
 「あぁ、なんとその日のうちに現地に移動だ。装備の類は全て取り上げられちまってね」
 カンセルは苦笑を浮かべると、先刻ティファにもらった何杯目かのお代りのコーヒーを一口啜った。
 「ザックスの調査は?」
 「完全にストップ。別荘の中にも外にも見張りがズラリ、だ。脱走なんて滅相もございませんよ」
 ふざけたように、肩をすくめる。
 「・・・ま、腐ってもソルジャーなんで、ちょっと本気になれば素手でも一般兵くらいは楽勝だったんだが、
 後々のことまで考えるとそう無茶もできないし」
 クラウドが無言で相槌を打った。
 「謹慎は、どのくらいの間?」
 気がつくと、厨房の片づけを大方終えたティファが、カウンター越しに向かい合うように座っている。
 「おい、仕事はいいのか?」即座にクラウドが突っ込んだ。
 「いいの、もうオーダーストップ。お客さんも残り少ないし」
 振り返ると、確かに客は自分以外に二人だけになっていた。彼らももう間もないうちに家路につきそうだ。
 あれだけ賑やかだった店内は、今はガランとしていて、騒ぎの余韻すら感じられないような気がした。
 「私も、話を聞かせてもらっていいですか?」ティファが尋ねる。
 「もちろん。こんなつまんない話でよければ」カンセルは笑顔で返した。
 「――謹慎は、だいたい二か月弱ぐらいだったよ」
 「そんなに!?」ティファが目を丸くした。
 「俺自身はもっと長く閉じ込められると思っていたけどね」
 「ティファはどのくらいだと思ってたんだ?」クラウドは彼女に聞いた。
 「えぇと、一週間くらい?」
 それを聞いて、二人が同時にブッと噴き出した。
 「な、なによう」馬鹿にされた気がして、ティファは薄く染まった頬を膨らました。
 「学校の校則違反だろ、それじゃ」クラウドが笑いを堪えながら言う。
 「だって、そう思ったんだもの!悪うございましたね、世間知らずで!」
 「そこまでは言ってない」
 「まぁね、俺のしでかした事にそれだけあの会社が過敏になったということさ」
 カンセルが口を挟むと、ティファの機嫌が幾分かおさまったように見えた。
 それはもう、幽閉と表現した方が良かったかもしれなかった。
 周囲一帯は常に神羅兵が見張り、屋内でも最低一人の兵が必ずカンセルの行く先について回る。
 外出もままならず、相当ストレスもたまったが、唯一、カンセルにとって収穫と言えるものがあった。
 主に屋内でカンセルの監視の任に就いていた一般兵、ルッツと打ち解け、友人になれたことである。
 きっかけは、カンセルが何気なく読んでいた小説だった。
 ルッツがたまたま、その作家のファンだったことで、二人の距離はずいぶんと近いものになっていた。
 「なぁ、ルッツ!」
 部屋の入口で直立不動の親友に、カンセルは声をかけた。
 「ミハエル探偵シリーズの最新刊て、いつ出るの」
 「あぁ・・・えっと、もうすぐですよ。たしか来週の頭だったです」
 「そっか。続きが気になってさ~~~!!あぁ、待ち遠しい」
 「予約したんですか?」
 「うん、食料と一緒に届けるように頼んだ。荷物がすぐ届けばいいけどな・・・お前にも貸してやるからな」
 「はい、ありがとうございます!」
 「・・・お前さ」
 「何でしょうか?」
 「いい加減その堅苦しい物言い、何とかなんない?」
 眉間に眉を寄せて、あきれたような口調で文句を言うカンセルに、新米兵ルッツはうろたえた。
 「い、いやこればっかりは・・・。実際今も任務中ですし」
 「だあぁーーー、誰も見てないだろうがよ。俺らダチなんじゃないの?いいって。二人の時ぐらいリラックスしたら?」
 「は、はぁ・・・」ルッツはポリポリと頭をかいた。
 「お前が話し相手になってくれて、感謝してるんだ。気分が沈まなくて済む」
 「・・・お役に立てているなら、僕もうれしいですが」
 「だから」
 「は」
 「その言葉づかいやめろって」
 「なかなか抜けなくて・・・努力します」
 今度はなんだかおかしくて仕方がなくなってきた。
 クスクスと笑いだしたカンセルにつられて、ルッツも「へへへ・・・」と恥ずかしそうに笑う。
 と、そこへ別の兵が小走りに寄ってきた。
 「カンセルさん!!」
 「ん、どした?」
 「申し上げます!明日、1月3日に反神羅組織アバランチ本部への突入作戦が決行されることが決まりました」
 「・・・拠点が見つかったのか?」
 「はい。作戦の中核部分は主にタークスの任務ですが、レイヴン対策に我々軍とソルジャーにも協力要請が来ています」
 「それで?俺っちになんか関係あんの?」
 カンセルが問うと、報告をする兵の顔に満面の笑みが浮かんだ。
 「カンセルさん、あなたにも出撃命令が下りました。『休暇』は、終わりです」
 思わず、ルッツと顔を見合わせる。
 「マジで?」
 「はい!マジです!」
 「よっしゃーーーーーーー!!」
 思わずガッツポーズをした。隣でルッツが「やった、やったーーー!」と万歳をし、
 その様を報告にきた兵がニコニコと見つめている。
 「後ほど、お預かりしていた装備をお持ちします。作戦総指揮はハイデッカー統率が担いますが、
 現場では主にタークスサイドから指示が送られてきます」
 「あ、それ聞いて安心した。ガハハの指示はめちゃくちゃで訳わかんねぇんだもん」
 「だから、僕らもあなたが戻るのがうれしいんですよ。
 軍もタークスもソルジャーも、あの人のおかげで任務での死傷率が増えてますから。
 ソルジャーや軍の現場での直の指揮は、カンセルさんが担当です」
 その言葉を聞いて、思わずカンセルは固まってしまった。
 「・・・・なんで?」恐る恐る尋ねてみる。
 「だって・・・、1stは不在ですから。2ndの中でも一番頭脳派のカンセルさんが指揮を執るのは必然というか」
 「ちょっと待てよ、現場復帰初っ端からそんな大役なんて・・・」
 「お願いしますカンセルさん!!他の兵もそう望んでますから!」
 「俺そんな器じゃねぇって!!!」
 「そんなことないです!他の2ndの方々もそう言ってます!」
 「嘘つけよ・・・」
 「本当ですってば」
 「勘弁して・・・」
 「・・・本当に、切実なんです。
 この間も、ハイデッカーの気まぐれな指示が原因で俺の友達が一人、死にました。
 あの人は、兵を使い捨ての道具としか見ていません」
 「・・・・・・」
 お願いします、と頭を下げるその兵を前にして、もはや首を横に振るなんてことは出来なくなっていた。
 「・・・俺なんかにまかせて、どうなっても知らねぇかんな」
 困り切った顔をしたまま言うと、その兵は、笑顔を取り戻して「ありがとうございます!!」と元気に去って行った。
 そんな大役が回ってくるなど考えもしなかったカンセルは、
 やっと解放されると思ったストレスの塊が最後の最後に一気に襲いかかってきて、思わず壁にもたれかかる。
 走り行く兵の背中を見て、溜息をもらした。
 兵に渡された資料を見ながらルッツは言う。
 「今夜さっそくブリーフィングがあるようですね。すぐミッドガルへ戻る手配をします」
 ルッツは、事務作業はとても素早い。
 彼はひょっとしたらデスクワークの方が向いているのかもしれないとカンセルは彼の作業を見ながら思ったが、口には出さずにいた。
 「なぁ、ルッツ」
 「はい?」
 「お前も明日の作戦、参加するの?」
 「そうみたいです」
 「そうか・・・、死ぬなよ」
 「・・・はい。カンセルさんも」
 相手の心配をしたつもりがすかさず返されて、カンセルは苦笑を浮かべた。
 「俺は・・・あいつ見つけるまで死ねないんだよ」
 「・・・くっそ、話が違うだろ・・・」
 敵から死角になる岩場の陰で、肩で息をしながらカンセルは舌打ちした。
 彼は今、ウータイにあるアバランチのアジト近くで、任務の真っ最中だ。
 任務内容は、アジト内に潜入したタークスが爆弾を設置。
 その間に、レイヴンらアバランチの主戦力を建物外部へおびき出して叩く、というもの。
 しかしどういうわけか事前に敵側にこちらの情報が漏れていたらしく、
 タークス、ソルジャー共々、予想外の敵の抵抗に苦戦を強いられていた。
 特に『黒いアバランチ兵』レイヴンが大量投入されていたことは、神羅側にとって全くの想定外だった。
 「なんでこんなテロ組織にこんだけ人員がいるんだよ・・・」
 現場復帰後の初仕事にて、初の現場責任者。
 プレッシャーと同時に、わくわくする気持ちも持っていたのは事実で、
 張り切っていたカンセルなのだが、仕事内容のへヴィーさに辟易してしまった。
 「準備運動」には少々過激すぎる内容だ。
 前夜のブリーフィングで、タークスの仕事がスムーズに進むよう、
 且つこちらの犠牲も最小限で済むように考え抜いた配備で挑んだが、
 この状況の中では流石に他の兵やソルジャー達が心配になってきた。自分のプランが裏目に出なければいいが。
 「カンセル!!後ろ!」
 声に素早く反応して真上にジャンプする。すぐ後ろにロングソードを構えて突っ込んでくるレイヴン。
 宙でくるりと体をひねりながら、大きく空振りする敵の背後をとり、着地と同時に肩から切り捨てた。
 そのままさらに後部を向いて剣を構える。他に二人、こちらの様子を伺ってるようだ。
 「先手必勝でしょ」
 先ほど危機を知らせてくれた相手にそう呟くと、うち一人へ高速で間合いを詰めた。
 キィン!と音を立てて鍔ぜり合う。カンセルは圧倒的な力で剣を押しつけた。
 「・・・くっ」
 パワーではカンセルに劣っているらしい敵は、かろうじてそれに耐えた。たまらず、剣を弾き返す。
 直後、カンセルの剣が瞬く間に敵の胸をとらえた。突き刺すようにして背後の壁に強くそのまま押しつける。
 カンセルの右肩にどす黒い血を吐き、そのレイヴンはそのまま息絶えた。
 返り血を浴びてしまい、カンセルは顔を歪める。この瞬間だけは、いつまで経っても慣れない。
 「よっと・・・」
 亡骸から剣を引き抜き、カンセルは呼びかけた。
 「そっちはどうよーー?」
 振り向くと、もう一体の敵を足元に横たわらせ、同期の2nd、アルフレッドがひらひらと手を振っている。
 「感謝しろ、俺のおかげでお前は今生きてるぞ」
 「はいはい。アル様が教えてくれたおかげでございますですよ。ありがたやありがたや」
 「今夜おごれな」
 「うげ」
 「いいだろ現場責任者。作戦成功したらボーナス出るんだろ」
 「知んねぇって」
 へらへら笑いながら場違いな会話をする二人の耳に、そう遠くない場所から悲鳴が届いた。
 二人の2ndは弾かれる様に声のした方へ走りだした。
 二人のいた岩場からそう離れてはいない場所で、
 数人の一般兵と一人のソルジャーが多数の敵に囲まれているのが見えると、
 走りながら二人はほぼ同時に呪文詠唱を開始した。
 ほんの少し、アルの詠唱が終わるのが早い。
 淡く緑に光るブレスレットをはめた左手を正面にかざすと、一般兵たちの周辺に光の孤が出現した。マバリアである。
 詠唱を続けながらその様を見届けるとカンセルは即座に両手を敵に向かってかざした。
 「フレア!」
 刹那、兵たちの周辺に閃光が走る。耳をつんざくような爆発音とともに、敵は一人残らずその体を爆風に散らせた。
 周囲の砂煙が落ち着き、アルがマバリアを解除すると、幾人かの兵がへなへなとその場にへたり込んだ。
 ソルジャーはゼエゼエと荒い呼吸をしながら、ヘルメットを頭からはずす。
 たった一人で一般兵たちを守っていたのはルクシーレだった。汗だくで、疲労がピークのようだ。
 「お前かよ、助けて損した」カンセルはわざとふざけた。
 「すいませんねぇ、絶世の美女とかじゃなくって」
 ニヤリと笑ってルクシーレが返す。冗談を飛ばす余裕は残っているようだ。
 「マテリアを使わなかったのか?」
 「・・・使えなかった、が正解です。こいつら、見つけた時にはほとんど重傷で、回復に魔力を使いすぎました」
 親指で指す先には、一般兵たちが力なく座り込んでいる。
 「なんか、そうこうしてるうちに囲まれちゃって、まるで1000人組手やらされてる感じ・・・」
 そこまで言うと、彼もその場にどさっと倒れた。あわててカンセルが抱き起こす。
 「お前も回復しねぇとな。あとでエーテルも分けてやる」
 「やった。先輩、大好き」
 「キモっ」
 肩を支えていた手をパッと離した拍子に、ルクシーレは後頭部を地面に強打した。
 「あだっ!・・・・・・・先輩、嫌い」打ち付けた部分を両手で押えて呻いた。
 「そりゃどうも。おい、アル!晩飯はルクシーレがおごってくれるってよ!」
 「なっ!・・・・・・・先輩、大嫌い!」
 「おー、ごっそさん!俺はおごってくれるお前が好きだぞー!」
 少し離れたところから、アルが大声で返事した。
 「僕はアルさんも大嫌いですーーーー!!」
 仰向けのまま、負けじとルクシーレも声を張り上げた。
 現場の張りつめた空気もなんのその、目の前で繰り広げられるソルジャー達の漫才に、
 一般兵達がくすくすと笑いだした。ルクシーレの回復を済ませた後アルの方へ歩きながら、
 緊張が和らいだ様子を見てカンセルは胸を撫で下ろす。
 一方アルは、一般兵達の様子を確かめていた。
 ルクシーレが回復を施し、尚且つ全力でガードしていたおかげで兵達は皆、体調には問題は無かった。
 多少、腕や顔に軽い裂傷が見られる程度である。
 ただ、精神的な疲労は相当なものだったようで、少し休息が必要か、とアルは考えていた。
 カンセルとルクシーレが機転を利かせて冗談を言ったおかげで多少は緊張が解けたようだが、それだけで疲れがとれるはずはない。
 「アル」カンセルがこちらへ近づき、声をかけた。
 「兵達はすぐ動けそうか?」
 「どうだろね、体は問題なさそうだけど、顔色が良くない。できれば小休止入れたいところ」
 「・・・・あまり時間は無いぞ、そろそろタークスがビル内に爆弾を設置し終わる頃だ。
 完了と同時に時限装置が作動するから、もう退却を始めないと爆発に巻き込まれる」
 周囲は岩山に囲まれ、どこからでも撤退が可能なわけではない。
 それ故に前日のブリーフィングで安全な退却ルートを設定、参加者に確認をさせていた。
 「全員無事に出たいねぇ・・・」アルが溜息をついた、その時だった。
 後方で、ドオォン!!とすさまじい轟音が鳴り響いた。
 「何の音だ!?」アルが驚きの表情を見せ、ルクシーレも飛び起きた。
 カンセルがすぐさま、端末からタークスの担当者に連絡を取る。
 「・・・・レノさん!?何すか今の音は?もう爆破しちまったの?」
 『違うぞ、と。アバランチの奴らが退却路を封じやがったぞ、と。』
 「退却路って・・・俺らが通る予定のルート?」
 『そのとおり。爆破を防ぐ事が出来ないなら、敵を道連れにって考えたみたいだな』
 「そんな・・・!俺ら今B-7地点近くにいます。スキッフ回せませんか?」
 『無理。着地できる場所がないし、一人ずつのんびり縄梯子で釣り上げる時間も余裕もない。無駄な犠牲は払えないぞ、と』
 そのかわり、と話し方に特徴のあるそのタークスは付け加えた。
 『そこからちょっと遠いが、ビルのすぐ西側のルートを使え。
 ただし、距離がある上に爆弾設置ポイントのすぐ傍を通ることになる。
 今すぐ撤退を開始しないと、最悪のタイミングで爆破に巻き込まれるぞ、と』
 西側のルート。通れないことはないが、安全性に疑問が持たれたのであえてプランから外したルートだ。
 「・・・わかりました。あなた方は大丈夫なんですか?」
 『大丈夫だぞ、と。それに、他人の心配してる暇なんかないぞ、と』
 通話を終えると、そのまま端末にマップを表示させ、経路を頭に叩き込む。
 カンセルはものの10秒で覚えきった。
 他の地点にいるソルジャー達に複数同時通信で情報を流し、
 一般兵を出来るだけ保護しつつ即座に撤退を開始するよう指示した。
 そして、傍にいる一般兵とソルジャー二人に簡潔に状況を説明し、すぐに行動を開始するように促した。
 だが、一人の一般兵が声をかけてきた。
 「あの、カンセルさん」
 「なんだよ、急いでるって言ったろ・・・・・、!」
 ヘルメットを取ったその兵を見て、カンセルは驚いた。ルッツだった。
 「お前、いたのか!・・・無事でよかった。で、要件は簡潔に頼む」
 「はい。・・・・僕たちは、ここに残ります」
 「何?」カンセルは表情をこわばらせた。
 「さっき、ルクシーレさんに助けてもらって実感したんです。
 僕たちは、戦闘でもあまり役に立てませんし、はっきり言って足手まといです。
 僕らのせいで皆さんが助からなくなるくらいなら、ここに残ります。カンセルさんたちだけで、逃げてください」
 見れば兵達が全員、まっすぐカンセルを見ている。本気で残るつもりらしい。
 だが、カンセルは彼らを鬼のごとき形相で睨み、一喝した。
 「神羅の誇るソルジャー様が仲間を見捨てて自分たちだけ逃げるなんて、
 するわけないだろうが馬鹿野郎が!!いいか、テメェの命を粗末に扱うんじゃねぇ!
 そんな奴が死んでもな、自己満足に過ぎねぇんだよ。残される側の気持ちを考えたのか!?
 生きて帰って、お前らの両親や兄弟や恋人に、一瞬でも死んでもいいって考えたことを詫びやがれ!」
 兵達は、カンセルがここまで怒りを露わにしたところを見たことがない。驚きと畏怖で固まってしまっている。
 すると、激高し肩を震わせるカンセルにアルがまぁまぁ、と声をかけた。
 「俺らソルジャーな、こんな仕事だから当たり前だけど、今までに相当な人数を殺してんのよ。
 敵だったり、時々一般人も殺さなきゃいけないような任務もこなしてるわけ。だから、尚更死ぬわけにはいかない。
 お前らだってそうだろ?もうその肩に、今まで戦った相手の思いを背負ってる。
 こんなところで人生終えたら、その人たちは何のためにお前らと闘って、敗れたのさ。
 簡単にあきらめないことも、仕事の内だと思うけどな」
 アルの口調は、至って穏やかだった。しかし、その言葉には揺るぎない意思が確かに見える。
 兵達は、ただ黙って聞いているしかなかった。
 「・・・・、いいか。お前らは俺が絶対ここから逃がしてやる。
 さっきみたいなことぬかしたら、今度はグーで殴るからな。いてぇぞ、ソルジャーのパンチは」
 アルが語っている間に怒りをどうにか静め、そのかわりふざけたようにカンセルは軽くルッツの頬に拳を当てた。
 ルッツは少し笑ったが、目尻が赤くなっていた。
 一部始終を黙って見ていたルクシーレは立ち上がり、ホルダーから剣を抜く。
 ひとつマテリアを剣の穴にカチン、とはめ込んでから兵達に言った。
 「撤退中も追手は来るでしょう?兵隊さん達、ルートは後ろから指示するから、先頭を走んなさい。
 敵が来たらなるべく僕たちが振り切るから。さぁ、行こうか」
 彼に促された兵達は立ち上がり、脱出ルートに向かって走り出した。
 レイヴン達の追跡は執拗なものだった。
 それでもカンセル達ソルジャーの奮闘で、脱出ポイントに着々と近づいていた。
 このままスムーズに行けば、爆破までに間に合いそうだ。
 他の地点のソルジャーや兵は皆撤退が完了したと連絡が来ている。残るは、自分たちだけ。
 「お前ら、しつっこいんだ、よ!!」
 右側から飛びかかってきた敵を切り捨てながら、カンセルは叫んだ。
 「武器も多彩で・・・うらやましい限り」
 他人事のように呟き、クールな表情のままで銃弾の雨を一つ残らず剣で受けきるアルフレッド。
 銃撃が止んだほんの一瞬に、リロードに気を取られた敵へ即座に魔法を放つ。
 巨大な氷の刃に串刺しにされ、そのレイヴンは物言わず崩れ落ちた。
 魔力の高いアルが繰り出す魔法は、カンセルのものよりも幾分か威力が高い。
 カンセルならばブリザガだけで敵を倒すのは不可能だろう。
 反対に、カンセルはザックス同様、パワータイプの戦士だ。
 分析力もあるカンセルは、瞬時に効果的な攻撃法を考え、実行に移す。
 敵の動きなどから弱点を暴くのは、お手の物だった。
 前方では、走り続ける兵達に襲いかかるレイヴンを、
 ルクシーレが常人には到底真似できないスピードで次々に倒していた。
 彼の体には黒く染まった霞のようなオーラが纏わりついている。
 その霞を風にたなびかせつつ、自らの体力を削る代償に驚異的なスピードとパワーを手に入れて舞う彼は、
 さしずめ死神の様相を呈していた。
 「・・・おー、怖えぇ」
 走りながらルクシーレの様子を見て、カンセルは呟いた。
 「暗黒使ってる時のアイツには、近づかない方がいいな」アルも肩を竦めた。
 「ていうか、脱出できたらまずアイツから回復だろ」
 「言えてる」
 二人はニヤリと笑いあう。
 どうして彼が暗黒のような技を特技としているのかカンセルは知らなかったが、彼もかわいい後輩であることに違いはない。
 全員が無事に脱出できそうな様子にカンセルは少し安堵した。
 「二人とも、伏せて!!」
 突如前方から投げかけられた声に、二人は即座に従う。油断した隙に、敵がすぐ後方まで迫っていたのだ。
 襲いかかる瞬間、そのレイヴン達に銃弾が命中した。
 呻いて倒れるが、尚も起き上ろうとしている。カンセルが彼らの首筋に一直線に剣をなぞる。
 血飛沫が飛んで衣服を汚したが、そんなものにかまっている暇はない。
 確実に息の根を止めたことを確認してから、振り返った。
 「び、びびった・・・サンキュー、ルッツ」
 また走り出しながら、カンセルは後輩に礼を言った。
 「・・・いえ、足手まといで終わらなくてよかったです」
 構えていた散弾銃を下しながら、恥ずかしそうにルッツは答えた。
 「お前、ルッツにもおごらないといけないんじゃねぇ?」アルが茶化す。
 「この場合、お前もだろうが」
 「あぁ、そうか」
 三人は笑い合った。走りながらだったので少し息苦しかったが、それでもおかしさの方が勝った。
 「・・・そろそろ爆弾の設置ポイントだ。爆破予定まであと1分。越えられそうだな」
 端末を片手にそう言った直後だった。
 すぐ右側に砲台を抱えた屈強なレイヴンが姿を現した。爆破ポイントあたりのビルの外壁を狙っている。
 「ランチャー!?こんな場所で・・・!」
 「なっ!・・・誘爆させる気か!?」
 アルが素早くファイラを唱え、炎の玉を敵の足に命中させた。
 敵の体はぐらついたが、かろうじて持ちこたえた敵は、至近距離にある壁に目掛けて一発を放った。
 轟音が周囲にいた者たちの聴力を奪う。咄嗟に顔の前で腕を交差させて防御したカンセルは、
 爆風には耐えたものの、自分に降りかからんとする危機には気づくことができなかった。
 狙いがずれたのか、誘爆は結局起こらなかった。だが、かつてアジトと呼ばれた建物の壁が一部、
 カンセルの上部から崩れ落ちてきた。
 「危ない!!」
 叫び声にハッとして真上を見る。目前に巨大な瓦礫が迫っていた。
 カンセルが避けきれないと判断した瞬間、彼の体は何かによって強く押された。そのまま押された方向へ真横に倒れこむ。
 すぐに状況が理解できなかった。
 視界に入ってきたのは、砂煙。やがて、自分の頭上にあったはずの瓦礫が正面に見えた。
 先刻の騒音のせいでまだ聴力が麻痺しているらしく、キィンと不快な耳鳴りがする。視界が晴れるのを待った。
 ・・・・瓦礫の下に、何かが見える。
 下半身を完全に押しつぶされ、痛みに呻くルッツが横たわっていた。
 「ルッツ!!!」
 カンセルが駆け寄る。ルッツは激痛と瓦礫の重みに顔をゆがめている。
 「今助けてやる、待ってろ!!」カンセルは青ざめ、激しく動揺していた。瓦礫に向かって魔法を放とうとする。
 「待てカンセル!そんなことしたらルッツも巻き添えだ!!」アルが叫んだ。
 「じゃあ・・・どうやって・・・」
 見開いた眼でアルを見つめるが、アルは答えてやることができない。カンセルの手が、震えて止まらない。
 「・・・カンセルさん・・・時間が無い、逃げて」
 か細い声でルッツが言った。
 「馬鹿、お前を置いていけるか」
 「軍にはあなたがいないと、駄目です・・・それに・・・・ザックスさんを見つけるまで、死ねないんでしょう?」
 「駄目だ!お前も連れて行くんだ!」
 「カンセル!」アルが呼んでも、カンセルは聞く耳を持たない。
 「どのみち・・・僕はもう無理です。足が、両方折れてるみたいです・・・」
 激痛に耐えながら、ルッツが言う。
 砂煙で視界が狭められた隙に総がかりで先刻のレイヴンを倒した一般兵達にも、
 彼を助ける術がないことは一目瞭然だった。圧倒的に時間が足りない。
 「カンセルさん、行きましょう」ルクシーレが右肩を担ぐようにして無理やり立たせた。
 「嫌だ、お前も一緒に・・・」
 「いい加減にしろ、カンセル!」アルが左肩を抱えて、引きずるように歩き出した。
  兵達もルッツから顔をそむけ、その場から離れだした。誰も、振り返らない。・・・振り返れない。
 「お前ら、放せ!ルッツ!!」
 「逃げろと言ってるんだ!!」
 突如、ルッツが大声で叫んだ。カンセルは驚いて彼を見た。その一瞬だけは、まるで時間が止まったかのようだ。
 「・・・アンタと友達になれて、うれしかったよ」
 たったそれだけ、ルッツは呟くと、微笑んで目を閉じた。
 カンセルの頬を、一粒、涙が伝った。
 「・・・・嫌だ、放せ・・・・・放せえぇぇぇ!!!ルッツーーーーーーー!!!」
 彼の叫びをかき消すように、爆発音が轟いた。
 少し遅れて、ビルが崩壊を始める。
 空気中に舞い上がる塵に覆われて、何もかもが見えなくなった。
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