A Expiation in the Fair 3
- ネタバレあり(CCFF7、FF7AC)
- タイトル : A Expiation in the Fair
- 投稿者 : jumping
- 感想・応援メッセージはこちら
2章 届かない返信
TO ザックスTITLE うそだよな?
本文 ザックス殉職って総務が発表したぞ。
でも、どうせ会社の発表なんてうそだろ?
今どこにいる?何してるんだ?
殉職扱いにされてるってことは、会社に対してまずいことでもしたのか?
困ってることがあれば手伝うよ。
とにかく連絡くれ。待ってるぞ。
カンセルは、神に祈る思いで送信ボタンを押した。
直前に総務から送られてきた社内報の内容は、彼にとってとてもじゃないが信じられる内容ではなかった。
下記のとおり4名の殉職を通知する。
ソルジャー・クラス1st セフィロス
ソルジャー・クラス1st ザックス
一般兵 2名
以上
――なんだよ、なんだよこれ。
任地から中々戻らないと思っていたら。・・・ふざけんなよ!こんな情報、偽物に決まっている!!
上の奴、いったい何考えてんだ。
絶対俺があいつを探し出してやる、こんな会社に騙されてなんかやらねぇぞ。
カンセルは元々、社内の裏事情に詳しい。
趣味の延長のようなもので、何かと機密情報の多いこの神羅カンパニーの背後を探るのは常日頃からよく行っていた。
それゆえに、この社内報を真っ向から疑ったのである。
もちろん、信じたくないという感情がそれを助長したことも大いにあるが。
簡単なハッキングの真似事、ニュースソースとして繋がりのある関係者、
彼が持ち得る全てのスキルをもって彼は調査を始めたが、意外なことに成果は全く上がらなかった。
機密ファイルへのアクセスコードは全てパスワードが変更されていた挙句、
今まで多少の金品を払えばべらべらとしゃべってくれた上層部の人間も口をつぐみ、何も話そうとしない。
外部の反神羅系ジャーナリストにもリスクを承知で接触したが、めぼしい情報は手に入らず、結局八方塞がりだった。
本当に最重要な事項じゃない限りは、情報管理を行う上層部のとある人間のずさんな性格が表れてるように、
扱いは適当なものだったのだ、今までは。それとも、今回の一件は最重要にカテゴライズされてしまうのか。
ザックスが何かに巻き込まれたのは間違いないだろう。しかも、あの英雄セフィロスも殉職扱いだ。
1stの彼らが命を落とすような事件が実際に起こったなんて、にわかに信じ難かった。
何もわからないまま、彼は再び端末を手に取る。
TO ザックス
TITLE だまされないぞ?
本文 ザックス、どこかにいるんだろ?いるんだったら、連絡くれよ。
おまえってセフィロスさんと同じ任務で行方不明になっただろ?
もしかして、セフィロスさんの殉職と関係あるか?
ニブルヘイムで何かが起きたってのは噂で聞いてる。
もしかして、お前ニブルヘイムにいるのか?
「頼む、返事してくれ・・・」
ソルジャーフロアの窓から鮮やかなミッドガルの夜景を見ながら、カンセルはつぶやいた。
「カンセルさん!」
不意に自分を呼ぶ声に、振り返る。
「あぁ、ゲイルか」
廊下の向こうから、後輩の3rdが小走りに近付いてきた。
「社内報、みましたか」
「あぁ」
「カンセルさんは何か知らないんですか?」
「知ってたら、とっくに皆にしゃべってる」
「・・・やっぱ、そうか。カンセルさんなら何か知ってるかもと思ったんですけど」
そういうと、ゲイルはがっくりと肩を落とした。
「皆の様子は?」
「動揺してます。ザックスさんを慕ってるやつは多いし、何よりセフィロスさんが殉職だなんて、信じられません」
「そうだよな・・・」
天井を仰ぎ見た。いつもどおり見慣れた白い枠と電灯が、等間隔で並んでいる。
それをぼんやり見つめると、カンセルはこう言った。
「な、もうちょっと俺なりに調べるからさ、皆にはあまりこのことを考えないように言ってくれるか?
動揺しすぎて任務に差し支えちゃいけねぇだろ」
「はい・・・じゃあ、何かわかったら絶対教えてくださいね」
「約束する」
「・・・お願いします」
ゲイルはぺこりと頭を下げると、足早にロッカールームへ入って行った。
『約束する』――そうは言ったものの、調べるあてはもう無い。
ニブルヘイムへ直接行って確かめようか、とも考えたが、カンセルは直ぐにそれを頭の中で却下した。
何かあったに違いないその地に無断で、しかも単独行動で踏み入れば、直ちに上層部に知れることになる。
きっと今は何らかの証拠隠滅の真っ最中だろう。もし捕まれば、情報収集どころじゃなくなってしまう。
何か他にいい手段はといろいろ考えを巡らせるうちに、一つのことに思い当った。
ニブルヘイムへ赴く直前、セフィロスが数日かけて資料室にこもり、何か調べ物をしていたことを思い出したのだ。
資料室には、実際には限られた量の書物しか収容されておらず、
しかも大半は元神羅の科学者だったホランダーが脱走時に持ち出してしまったことはカンセル自身も承知していたが、
とにかく他にあてはないのだ。
例え無駄足でも、行ってみる価値はあるかもしれない。
カンセルは、すぐに立ち上がり、エレベーターに向かって走り出した。
資料室に着いて彼が先ずしたことは、司書に頼んでセフィロスの閲覧記録を辿ることだった。
セフィロスは頭が切れることでも知られていたが、彼が数日かけて読んだ資料の冊数はとんでもないものだった。
普通なら、この日数でこの数を読覇することなど、到底無理。
司書のデスクに鎮座したデスクトップの画面上を見て、その数にカンセルは軽く眩暈を覚えた。
「仕事中にごめんねぇ・・・悪いけどこれ、プリントアウト出来る?」
若い女性司書に向かって軽くウインクしながら頼むと、
司書は赤くなりながら即座にプリンターに用紙をセットした。印刷が終わると用紙を受け取りながら、
「ありがと。お礼に今度御馳走するよ。夜景がきれいなところで、ね?」
彼女にそっと耳打ちして書庫へ向かった。司書は耳まで赤くしてカンセルの背中を見つめている。
彼は女性の扱いが上手い。実際、ルックスも中々のもので、ザックスと共に休日に街中を歩けば一際目を引いた。
そういう点では、彼はザックスとよく似ている。
やはり、というべきか。
カンセルはセフィロスが資料に目を通すのに必要とした日数のすでに倍近くを費やし、
尚も読み終わらぬ資料の山に悪戦苦闘していた。
「・・・英雄って、やっぱ伊達じゃないよな・・・」
ぽつりと溜息交じりに漏らす。
ここまで読んだ資料で判ったこと。
過去に一つの理論のもとに、二種類のプロジェクト、人体実験が行われたこと。
その実験が行われたのと同じ年に、セフィロス、アンジール、ジェネシスの三人のソルジャー1stが生を受けたこと。
残りはセフィロスの幼少時から青年時にかけての成長・行動記録と、無関係な他の論文だった。
これはようするに「ハズレ」である。
肝心な二種類の実験内容については、案の定資料が欠落していた。
膨大な時間を費やした割には、実りが少ない。
しかも連日資料室に通い詰める彼の行動は、女性司書に可哀想な勘違いをさせてしまうと共に、
カンセル自身にとって枷となる事態を引き起こしてしまう。
「カンセルさん!カンセルさんてば!」
資料内容に没頭していたカンセルは、突如自分を呼ぶ声にハッと我に帰った。
「・・・ルクシーレ」
気づけば、自分のすぐ間近に後輩の2nd、ルクシーレが立っている。
ソルジャーのくせにこんなに近づくまで気配に気づかないとは。少しショックを受けた。
「探しましたよ先輩、何日も姿が見えないと思っていたらこんなところで何をしてるんです」
少々不機嫌そうにルクシーレは問いただすと、目の前のデスクに広げられた資料の一つを手に取り、パラパラとめくった。
「『ニブルヘイムにおける魔晄炉建設計画図案』・・・なんでこんな古いものを」
カンセルはルクシーレの手から慌てて資料を取り上げた。
「いや、なんでもないんだ。・・・お前こそ何か用があるんじゃないのか」
ルクシーレは尚もほかの資料を物色しながら、言った。
「えぇ、大ありですよ。コンドルフォートの調査結果報告書、まだ未提出でしょ、先輩」
「・・・あ」
すっかり忘れていた。大事な仕事を失念するほど、自分は取り乱していたのか。
先刻、ルクシーレの気配に気づかなかったことといい、自分でもどうかしてるとあきれてしまう。
「僕が代りにガハハに叱られたんですよ、もう。最近、先輩おかしいですよ?仕事をサボるなんて今までな・・・」
「これがおかしくならずにいられるかっての」
突然、カンセルが悪態をついた。
「お前は何とも思わないのか、ルクシーレ?ザックスにあんなに懐いてたじゃないか。
ある日いきなり、『死にました』って言われて、ハイ、そうですかで済ませられるか?
仮にもアイツは1stだぞ。しかもセフィロスさんも同行している!よっぽどのことがないと・・・」
「何とも無いわけないでしょう!!!」
今度はルクシーレが大声を上げた。驚いたカンセルは目を見開く。
「・・・やっぱりザックスさんの事を調べてたんですね。いくら心配だからって、
あなたみたいな行動を取ったらどうなるか、考えなかったんですか!?」
「どういう意味だよ」
「今、僕達ソルジャーの指揮をとっているのは、ラザードさんじゃないんですよ」
至極当たり前のことを言うルクシーレ。カンセルはますます意味がわからない。
「先輩、ハイデッカー氏から直に呼び出しです。今すぐ司令室へ向かってください」
「何だと?」
「私用端末から、社内の機密ファイルにアクセスしましたよね?しかも、こうやって何日も資料室にこもって情報収集」
バレた。事の重大さに今ようやく気付いたカンセルは、茫然とする。
「――僕がここに来たのは、それを伝えるためです。じゃあ」
ただ淡々と、無表情に伝達を済ませるとルクシーレは、すぐさま踵を返した。
カンセルは、ただ成す術もなくルクシーレの背中を見送った。
ハッキングに関しては、痕跡を残さないように最善の注意を払った、つもりだった。
何故それがハイデッカーに知れているのか、その点についてカンセルは全く解せずにいた。
「まぁ、座りたまえ」
前任のラザードが使用していた頃とは打って変わって、
指令室には悪趣味な色のソファがど真ん中にどん、と置かれていた。どうやらハイデッカーが持ち込んだようだ。
そのソファの、これまたど真ん中にふんぞり返るように座って、ハイデッカーはカンセルを室内へ招き入れた。
「失礼します、サー」
カンセルは軽く敬礼した後、反対側のソファに腰かけた。
ばかでかいこのソファのおかげで、秘書のデスクは部屋の隅に窮屈そうに配置されている。
「さて、何故ここに呼ばれたかはもう分かっているな」
「はい」
「先日惜しくも殉職した1stのザックス君とは、仲が良かったそうじゃないか」
「・・・はい」
「彼の突然の悲報に動揺してしまう気持もわかる、うん、私はやさしいからな、よーくわかる」
「はぁ」
「だから、今回君が行ったことは全て水に流すとしようと決めた。よかったな、ガハハハハ」
「・・・・・」
「そしてだ、将来有望な君がこれ以上、心身に疲労を重ねることは今後の任務においても喜ばしくないことだ。
いくらソルジャーでも注意力が削がれれば命の危険も増す。会社としても、君のような優秀な社員に何かあっては困るからね」
ただでさえ耳障りな声と口調にうんざりするのに、ハイデッカーは本題を出し惜しみして話している。
「あの、結局何なんですか」
自分の話を遮るように急かしたカンセルを、ハイデッカーは睨みつけた。
無論、カンセルはそれくらいで怯むようなことはない。平然とするカンセルにハイデッカーは苛立った。
「そんな君に、長期休暇をプレゼントしよう。我が社保有の地方の別荘でしばらくゆっくり過ごすといい。
ま、見張りの兵は常に配備させてもらうがな、ガハハハハ」
カンセルは盛大に溜息をついた。ようするに謹慎だと、もっと手短に伝えられないのかこのヒゲタヌキ。
「言っておくが、君にこれを拒否する権限はないぞ。私からの直々の命令だ。ありがたく思え」
「分りました。サーのご厚意に甘えさせていただきます」
そういうとカンセルは立ち上がりドアへと近づき、部屋を出る間際に満面の笑顔を浮かべ、こう言ってやった。
「では、失礼いたします。ところでこのソファ、素敵な柄ですね。
人に任せてばかりでご自分では中々お仕事を為さらないサーなら、
この狭い仕事場にこのような大きいソファを置いても業務には差し支えないですね。
いっそテレビとゲーム機でも持ち込まれたらどうです?」
閉めた扉の向こうから、花瓶が割れる音がした。
⇒ 続き