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A Expiation in the Fair 1

  • ネタバレあり(CCFF7、FF7AC)
  • タイトル : A Expiation in the Fair
  • 投稿者 : jumping
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プロローグ

 ~A Expiation in the Fair~
 CRISIS CORE FINAL FANTASYⅦ Lost Episode
 プロローグ 【μ】εγλ-0010 1/29
 ――喧騒が、あたりを取り巻いていた。
 車のエンジン、クラクション、人々の会話、足音、どこからか聞こえる音楽。
 様々な音が混ざり合っているが、無機質なこの街には似合いのBGMかもしれない。
 コツコツと黒い皮靴を鳴らしながら、街中を一人の男が歩いていた。
 たくさんの書類が入ったアタッシュケースを持つ手には、
 この季節にしては暖かい日和のせいで脱いでしまった上着がかけられ、反対の手には一枚のメモを持っている。
 ふと、耳障りな金属音に男は立ち止まる。
 彼が見た先には、修復作業中の巨大なモニュメントがあった。
 関係者以外は立ち入らないよう、バリケードに囲まれている。
 そのバリケードに、男は見慣れたロゴマークを見つけた。「神羅カンパニー」。
 何故か男はそれを見つけると苦々しく眉をゆがめ、そしてまた歩き出した。
 教えてもらった通りなら、すぐ目の前の路地へ入るはず・・・。
 角を曲がると、すぐ傍らに幾人かの子供がたむろしていた。
 少し大柄な少年が、自分の将来の夢について熱く語っているようだった。
 「俺は、大人になったら、絶対父ちゃんみたいに腕のいい大工になって、そんで父ちゃんの仕事を手伝うのさ!」
 「すごいねぇ」すぐそばにしゃがんでいる少女が相づちを打つ。
 「せっかく病気が治ったんだ。今も簡単なことは手伝ってるぞ」
 えっへん、と胸を張る少年。
 と、肌の白い、鮮やかな茶色をしたくせ毛の少年が口をはさんだ。
 「なぁ、俺その話昨日も一昨日も聞いたぞ。うれしいのはわかるけどいい加減耳タコ。」
 「なんだよ、いいじゃんか。もうあの痛みに悩まされなくて済むと思うと、うれしくて、色々話したくなるんだよ」
 「それはわかるけどさぁ」
 少年たちの他愛もない会話は、通りすがりの男の心をも和ませた。
 数か月前まで、こんな風に夢を語る子供など、この街にはいなかった。
 大人ですら蔓延する謎の病を恐れ、未来に希望を持つ余裕など持てはしなかった。
 星痕症候群なる不治の病を抱え、道すら見失いかけた人々に奇跡が起こったのは一か月ほど前のこと。
 突如、廃墟と化したミッドガルのスラムの一画にある教会で大量の水が地面から噴き出した。
 その不思議な力を持った水はまるで意志を持つようにうねり、教会内に巨大な水たまりを創った。
 天空からも同様のものと見られる雨が病める人々の頭上へ降り注いだという。
 その水に触れたものは、たちまち星痕の症状が消えていった。――街中が、歓喜に満ち溢れた。
 その奇跡の正体を、男が知る術はなかったが、ただ、子供たちにこうして笑顔がもどったことは純粋にうれしく感じていた。
 子供たちの会話に少し頬を緩ませながら通り過ぎようとした時、唐突にその言葉が耳に入ってきた。
 「じゃあそういうお前はなんだよデンゼル!お前だって毎日クラウドの話ばっかりしやがってさ」
 クラウド
 その人物の名前と思しき単語を聞き、男は歩みを止めた。
 「うぅ、うるさいな!何話そうが俺の勝手だろ」
 「だったら俺が毎日同じ話してもいいでしょーが」
 友達に突っ込まれて、言い返せずに口をとがらせるその色白の少年に向かって男は声をかけた。
 「坊や、クラウドっていう人、知ってるのかい?」
 いきなり見知らぬ大人に話しかけられ、少年――デンゼルは怪訝な表情を浮かべる。
 「おじさん、誰?」
 おじさんという表現に少々ムッとした男は、
 「お に い さ ん はね、雑誌記者をしていて、先月ここで起こった騒動について取材をしているんだ。
 そのクラウドさんは関係者みたいだから、話を伺おうと思ってね。もし知ってたら紹介してくれないかい?」
 と名乗った。
 「セブンスヘブンという店にいるって聞いたんだけど・・・」
 「・・・・・・」
 男のことを胡散臭いと思ったらしいデンゼルは、黙りこくって男を睨む。
 「別に獲って食おうって訳じゃないから。本当に取材なんだって、ホラ」
 そう言って、デンゼルに名刺を見せた。ここらじゃ有名な出版社だ。
 「な?・・・・言っておくが本物だぞ」
 「わかったよ、おじさん。案内してやる、ついてきて。」
 そういうとデンゼルは座っていたドラム缶の上からひょい、と飛び降りると路地の奥のほうへスタスタと歩きだした。
 意外と足が速い。男は慌てて後ろから追いかける。
 「協力ありがとう・・・でさ坊や、俺はおじさんじゃなくておに」
 「デンゼル」
 「は?」
 いきなり会話を遮られ、男は少し面喰った。
 「『坊や』じゃなくて、俺の名前はデンゼル」
 少年は、その幼稚な呼び方がさっきから気にいらなかったらしい。
 「あぁ、済まなかったデンゼル。・・・君は歩くのが早いな、店はすぐ近く?」 「うん、あの看板があるところ」
 前を見ると、「7th HEAVEN」と書かれた看板が見えた。
 「あそこか」
 男がつぶやくと、デンゼルは小走りで店に向かい、ドアを開けた。
 「おい、【準備中】って書いてあるぞ、勝手に入るなよ!」
 「いいんだよ、ここ俺んちだから」
 「え?」
 男の驚きなどには構いもせず、デンゼルは店の奥に入ると家族の名前を呼んだ。
 「ティファー、ティファー!居るー?」
 すると、カウンターの奥から長い黒髪の女性がひょこっと顔を出した。
 「おかえりデンゼル、なぁに?」
 開けたドアから射す日光に、その黒髪は艶やかに光った。瞳は吸い込まれそうに深い、紅茶色。
 見たところ二十代前半というところだろうが、デンゼルの姉だろうか。
 男は女性の容姿に見とれながらぼんやり考えていたが、デンゼルの声にハッとした。
 「ティファ、このおじさんがさ、クラウドに会いたいんだって」
 まだおじさんと呼ぶかこのガキ、と言いかけたがティファの視線に思いとどまる。
 「あ、はじめまして。俺はこの雑誌社でジャーナリストをしている者でして」
 営業向けの語り口調で、さっきデンゼルに見せたものと同じ名刺を取り出し、ティファに手渡した。
 「はぁ」ティファも明らかに突然の来訪者に困惑している。
 「先月、このエッジおよびミッドガル周辺で起きた事象について、取材をしているんです。
 こちらにいらっしゃるクラウドさんが、この件についてよくご存じだと伺ったものですから、ぜひお話を、と思いまして」
 「クラウドは、今いません。仕事で」
 「仕事ですか。では昼間はいつも?」
 「ハイ。普段は大抵留守にしてます」
 「そうですか・・・・戻られるのは夜?」
 「夜が多いです。だいたい、早くて19時くらい。遅いと深夜になることもあります」
 「わかりました。では、今夜出直します」
 「今日はまだ何時になるかわかってませんよ?」
 「その時は、また日を改めるまでです。ひとまずご本人にお会いしないと私も仕事にならないんで」
 それだけ言うと、男はドアのあるほうへ踵を返した。
 「あの!」
 ティファが呼び止める。
 「なんでしょう?」
 男が振り返るが、ティファは言葉を飲み込んでしまった。
 「・・・いえ、何も」
 「? それでは、また来ます」
 男は微笑んで、店の外へ出て行った。
 ブルルル・・・・ 聞こえなれたマフラー音が店に近付いてきたのは、男が去ってから小一時間ほど経ってからだった。
 「クラウドだ!」
 デンゼルがぴょんぴょん飛び跳ねながらドアへ走っていく。
 「クラウド、帰ってきた?」奥の階段から、マリンも駆け降りてくる。
 「ただいま」
 ドアを開けながらそう言うと、クラウドは子供たちの出迎えを笑顔で受けた。
 「おかえりなさい」
 ティファがカウンターから声をかけると、
 「ただいま、ティファ」そう言って、やさしく微笑む。
 カダージュ達のあの事件以降、過去と上手に折り合いをつけられるようになったクラウドは、ようやく笑顔を見せるようになった。
 そのおかげで、彼の家族はとても穏やかな日常を過ごせている。少々困るのは、彼の女性常連客たちだ。
 以前の近寄りがたい雰囲気は成りを潜め、やわらかい、やさしい笑顔を見せるようになった途端、
 彼のファンが急激に増えてしまったのである。
 元々、顔立ちは美形で評判だった彼は、客のもとへ配達に訪れるたびに、
 やれお茶を飲んでいけ、やれおいしいお菓子があるからなどと足止めを食らう羽目になってしまう。
 突然十代の女の子からラブレターを渡されたり、
 挙句の果てには「うちの孫の婿に」とお年寄りから無理やり見合い写真を持たされたりしたこともあった。
 それを本人が困惑した顔でティファに相談するのである。どうやら原因については本人は全く自覚がないようだ。
 ティファとしては、自分の想い人がモテモテで困っているなどと聞けば複雑な心情も無くはないが、
 それよりも周囲の露骨な変化がおかしくて仕方がなかった。
 初めてその話を聞いた時、クラウドの面前で大笑いをしたのだが、
 「俺は真面目に話をしてるんだ」
 とクラウドがむくれたので、それ以来笑うのは我慢することにした。
 人付き合いの上手くないクラウドにとってはかなり悩ましいことらしい。
 「今日は早かったね」
 ティファがグラスを拭きながら話しかける。
 「いや、実はあと一件残っている。依頼人がこの近くの人だから、伝票を置きに一度戻ってきた。」
 「えーーーーー」
 それを聞いて、マリンがかわいい頬を膨らませた。
 「じゃあ、また出かけるの?」
 デンゼルが寂しそうに尋ねる。
 「ああ・・・すぐ戻るから」
 「ちぇ。つまんないの」
 がっかりする子供らの頭をクシャクシャとなでるクラウドに、ティファは先刻の客の話をしようと声をかけた。
 説明を聞きながら手渡された名刺をしばらく眺めた後、それをポケットにしまうと、
 「分かった、なるべく早めに戻る」
 と言って店を後にしようとした。が、ティファに引き留められた。
 「・・・どうした?」
 クラウドは心配そうにティファの顔を覗き込む。
 クラウドを彼の服の裾を引っ張って引き留めるという、
 少々幼い行動を思わずとってしまった自分に驚き、ティファは慌ててクラウドの服をパッと離した。
 「や、あ、あの、ごめんなさい、えぇと」
 顔を赤くして狼狽するティファ。
 「ん?」
 クラウドはやさしく聞き返す。
 「私が、気にしすぎているだけだと思うんだけど」
 「大丈夫、話して?」
 クラウドに促され、ティファは恐る恐る口を開いた。
 「うん。・・・・その名刺の人なんだけど、瞳の色がクラウドと同じ、だったの・・・」
 クラウドの瞳の色。
 澄んだ空色のようなそれは、宝石に例えるなら瑠璃、いや、ブルートパーズだろうか。
 神羅に属していた頃の、辛い過去を象徴する瞳。
 彼のその瞳と同じということは、その男も神羅に関わりを持っていたことを意味する。
 どちらにせよ、当人に会わなければ彼の本来の目的も理由も判りはしない。
 ここで考えを巡らせても仕方のない話である。
 「その男に会ってみないと何とも言えないな・・・。ティファ、心配しなくていい。何かあれば、必ず守るから」
 強い眼差しで、そうティファを安堵させたクラウドは再びフェンリルと共に出掛けて行った。
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